「好きで活きて得意で稼ぐ」PROsheetブログ担当のたぐちです。
本日は、Web上で原稿を作成し紙の本で出版するウェブサービス「∞books(ムゲンブックス)」を公開されたばかり、デザインエッグ株式会社代表の佐田幸宏さんのインタビューをお届けします。
Contents
起業の原点。教科書のリユースオークション
__早速ですが、ご自身の経歴を簡単に教えてください。
情報系の大学生だった頃にちょっとプログラミングをやったんですけど、向いてないっていうか単位が取れなかったんですよ。で。「ダメだ、自分は何をするんだろう」と3年間過ごしていたんですが、3年目の時に教科書のリユースオークションを作ろうと思ったんですよ。何故かというと、1年生の頃に購入した教科書って理系だから高くて、全部で5万円くらいするんですね。しかも、先生から「これ授業で使わないから。」って言われたページを開いたらWindows98とかのキャプチャ画面だったり情報が古いんですよ。
3年生の頃、ある先生の授業の教科書を買ったら3,200円もするんです。で、裏を見たら昭和5◯年発行って書いてあって僕より歳上なんですよ。それで二十数年間改定もされずに毎回配布資料配って。「なんでこんな事になってんの?」って思うじゃないですか。でもそれは、版を変えるとお金がかかるし、先生がお金を出して印刷しているから一冊売れても儲からないんです。僕らは古い授業で勉強して不便だし、先生も改定した情報を毎回プリント配って不便だし。それで何か出来ないかなと思った時に、先輩から譲って貰おうとオークションを立ち上げたんですよ。サークルとかで縦の繋がりがあるならいいんですけど、それが無かったから捨てるしかない。でも勿体無いですよね。で、後輩は3万くらい出して買ってるし。それでリユース出来ないかと。で、これが所謂僕の起業体験になるかもしれないんですけど、インターン1年間で貯めた100万円を全部つぎ込んで。内60万がサーバー代でしたけど(笑)
結局、結局売上が200円。僕の本が売れたお金で終わりっていう。未だにそのサイトがまだありますけど、昔のヤフオクみたいな古いやつで、わざわざ全国600大学のリストも作って、自分の大学でも凄く力を入れてやったけど全然ダメでした。
電子書籍の時代が来る!と意気込んだものの…
その後、大学院の起業家専攻というのに進んで、2年間時間があって色々考えて、「僕はコンピュータは人よりちょっとくらいできるけど、プログラミングができるワケではないからITじゃないところに行こう」と考えたんですね。でも卒業後メーカーに入社したら情報システム側に入れられて、「違うんだ、俺はプログラミングは出来ないんだ」って言っても、「出身がそうだから」って言われてだいぶ揉めて。結局ゴールデンウィーク明けにマーケティング部に移ることになり、営業の業務を見て改善の提案や企画をして、「こういうの(ツールやシステム)を入れたらお仕事楽になりますよね」「コミュニケーションが円滑になりますよね」といった事をやっていました。
それで1年経った時に、iPadが発表されたんですよ。それで「これは凄い。電子書籍の時代が来る」って僕はすぐに今のパートナーに電話をして、今すぐやろうって。それから2ヶ月後に取り敢えず会社を作って、当時はまだサラリーマンもしてたんですけど、2012年の1月に電子書籍のサービスを出したんです、「Kindleより先に誰でも簡単に本が出せる」と。でも、それが全然ダメで売上が0で。
__大学生時代はダメだと思われたプログラミングですが、その時はすぐに習得出来たんですか?
プログラムを本当に始めたのは2011年の8月で、5ヶ月でサービスを一個出しました。大学は勉強させられるじゃないですか?僕はプログラムの勉強というか、勉強のための勉強はしたことなくて、常に作りたいものがあったんですね。教科書のオークションの時もちょっと触りましたし、作りたいものがあってそれを実現するためのツールであって、身につけないと作れないから必然的に身につけましたね。
次に出したのは、Kampa!っていう手数料無料の送金サービスなんですけど、その時は思いついて1週間で出来たんですよ。以前は半年とか1年間かかってたのが、1週間で。ちっちゃいサービスだったのもあるんですが。当時は匿名で手数料無料で送金できるというものがなかったので、凄いウケましたね。
MyISBNの誕生、そして∞books(ムゲンブックス)へ
ただ、そのKanpaも物凄く儲かってるかというとそうでもない。そんな時に「紙の本を出版したいんだけど、ISBNコードがないから本が出せないんだ」と言ってる人がいて。「そんなの勝手に出せばいいじゃないか」って思ったんですけど、個人で取るのは住所を出さないといけないから嫌だと。「じゃあ僕が取ってあげるよ」と言って、その時たまたま1冊から本を印刷してくれるサービスがある事を知って、組み合わせたらサービスになるんじゃないかなと思って出来たのが、MyISBNです。

MyISBNではWordなどでキレイに作って貰った原稿をPDFにしてアップロードして貰うんですけど、PDFを作るのって実はめちゃくちゃ難しいんですよ。たぶん僕らからすると(その感覚が)わからないと思うんですけど、普通の人には出来ないんです。PDFに変換する以前に、偶数奇数でページ番号を振り分けたり、右端に置いたり左端に置いたり…といった事が出来ない。他にも余白は何ミリ切るという設定が出来ないし、紙のサイズもA4ではなくB5だったりするんですが、それも変更できない。Word自体が使えないし、しかもWindows98とか使ってる人がいたりするんですね。
今回リリースした∞books(ムゲンブックス)というサービスはそういう人達でも本が作れるようになります。全部クラウドにあって、Web上から文章をそのまま書いて、ボタンを押すだけで縦書の本が作れる。縦でも横でも。

こうやって著者ごっこして遊んだんですよ(笑)こんなのできるの紙だけなんですよね。
これって無料で出せて、1冊から買えて東京だと次の日には届くんですよね、Amazonで注文したら。だから自分の本を作ってみて買ってサイン書いて友達に「はいサイン」って遊べるんですよね(笑)そういう遊びって出来なかったし、それができるのは面白い。
__印刷はどこでやってるんですか?
Amazonで販売分はAmazonがやってくれて、その他はウチの提携先でやってます。これ(写真の本は)はデザイナーがデザインしてくれてウチの提携先でやった本なんですけど、通常は写真をアップロードしたり字を入力してボタン押せばできるという簡単なものです。

DTPやってる人や専門の人から見たら「これは本じゃない」みたいな事を言うんですけど、僕は出版社の人間でも出版業界の人間でもなくて、ただの一読者として「別にこれでいいじゃん」と思うから、同じように本に特別拘りを持っているワケでもなくてコンテンツとして読んでるだけの人は同じように感じてくれるんじゃないかなと思います。
過去に何があったのかを残しておきたい

__どのようなユーザーが多いんでしょうか?
昔から自分の思いを綴っていてそれを形にしたいという人と、実用書として自分の持ってるノウハウや技術を後世に残したいと書いてる人と、大きく分けると2種類ですね。ノウハウには大学の教科書なんかも含まれていてるんですが、今ちょっとずつ変わってきてて、今年も「4月から教科書使うんでこれください」という依頼が来ています。大学の先生って本を書きたいけれども、出すにもお金が掛かるので、ウチが選ばれるようになってきました。面白かったのは、最初に出して頂いた大学の先生の本があるんですけど、最初はページ数が沢山で高くなったから紙と電子両方とも作成して、「紙は買ってね。電子はPDFがあるから電子書籍リーダで勝手に見て」と。で、色々チェックすると、成績TOPの子って絶対に紙だけで勉強した子なんですよ。両方じゃない。で、一番下は電子だけの子なんですよね。で、そういう事がわかってきたんで次の年からは教科書を全面改訂してサイズもちょっと大きくして、中身を書き換えて、電子書籍版を廃止したんです。わずか1年で教科書が変わるんですよ。
あと、著者の方と話をすると、例えば自分の書いたところに編集が入って、色々やり取りしてる間に最終チェックのところで図を入れるのを忘れたなんて話もありました。そういう本って完売していないから第2版の改定が出来ないです。その著者さんが凄く頑張ったのに、間違ったまま出ているのに改定が出来ない。ウチだったら編集が入らない代わりに自分の責任で全部できて、間違っていたらまた編集ができる。今の時代それでいいのかなとも思いますね。
__Webサービスなのにあえて紙というのいいですよね。
認めたくはないですけど、ちょっと電子書籍はトラウマなんですよ(笑)。「電子書籍いいよ」と皆にいっぱいいったんですけど、やっぱり紙がいいという人がたくさん居て、たぶんそれって変わらない。紙には紙の良さ、電子には電子の良さがあって。あと紙の本って良く出来てるんですよね。僕も自分で作ってみて普段意識しないところを意識するようになりました。Kindleって余白がないじゃないですか。本の場合、この余白が2.5センチなんですけど、ちょうど親指を置いても隠れないくらいのかなぁと勝手に解釈してるんですよ。
__今改めてどんな方に使って欲しいなと思われますか?
今戦後70年になって戦争を知る人が少なくなってきています。別に僕は戦争の記憶を残したいとかそんな大それたことじゃなくて、過去に何があったのかというのは残しておきたいと思うんですよね。出版社が出した出版物って国会図書館にも置けますし、未来永劫残るんですよね。それって声なき声じゃないですけど、今までおばあちゃんから聞いたというレベルでしかなかったものがちゃんとコンテンツとして残って、売れないかもしれないけど、5年10年後にそれは価値があるかもしれない。そんなものを作りたいなと思っています。実はこの前たまたまそんな本がきたんですよ。戦争当時、子供だった人達がどういう生き方をしていたかというのがこの本に書いてあって、興味深かったですね。

__普通の出版社じゃそうそう出せない本ですよね。
出版不況だし、1万部10万部売れるのかというと売れないとは思うんですよ。でも、だからといって出さないというのもどうかなと思うので、僕はこのサービスをやっていて良かったなと。この本はNPOが絡んでいて、PDFにしてMyISBNで出版されたものですけど、これが∞books(ムゲンブックス)でWeb上で字を書くだけでいいとなったらまた全然違うんだろうなと思います。
__確かに、70代80代の人がWordを使えるかというと…。
そうなんですよ。そして大抵の人はPDFを作れないんですよね。だから字を打つだけという次のステップとして、∞books(ムゲンブックス)なんです。MyISBNは5,000円頂いていますが、∞books(ムゲンブックス)は無料で提供していますし。売れたら1割を作家さんにお支払いして、残りをウチと印刷代と送料、販売店などへの手数料にあてています。売れないとどこにもお金が発生しないので、出したい人が出したいだけ出せます。
__ところで、MyISBNの販売ラインナップ、かなり面白いですよね。タイトルを見ているだけでも楽しいです。
マニアックなタイトルが多いですよね。しかもちゃんとAmazonレビューもついてるんですよね。このラインナップを見て、これなら私も出せると思う人もいると思います。
今後は技術書が出てきたら嬉しいですね。プログラマーの方って以外にも電子書籍じゃなくて紙の本買いますよね。もちろん電子書籍派の人もいますけど、隣に置いてペラペラめくれるのとは操作感が全く違う。ただ、紙の場合は出版されるのが遅いんですよね。「最新の情報です!」って出した後、半年くらいでバージョンが上がったり、出版直前で仕様変わって書きなおして発売日が遅れたり。でも、そのスピード感であってもウチならすぐに改訂版出せますし、そういう意味で、技術書が出てきたら面白いなと思います。
人にできないことをできるエンジニアだからこそ

__サービス自体は今後どう発展していきたいと考えていますか?
ラインナップが増えてくると、書店からの問合せが増えるんですよね。出版業界って取次業者にお願いしていて、書店からの問合せに全部対応してくれるのですが、僕はお金ないから自分でやっていますが、面倒くさいのでそれを全自動化するっていうのを作っています。そうなるともっと書店に出せるし、同じような事してる人に「これ使えないの?」って言えるようになります。
MyISBNは今も順調に伸びてるんですよ。100万ユーザー突破とかそんなものではないですけど、下がる事なくラインナップを増やし続けています。同じ調子で一歩一歩伸びているんで、このまま地道に着実にやっていこうかなと。∞books(ムゲンブックス)については、MyISBNより角度を高く成長させていきたい。
5年と言わず3年後くらいに、紙の本を出すということを、普通にしたいんです。例えば「Twitterのアカウント作りました。つぶやきました」って全然凄くないじゃないですか。それくらいにしたいんです。ブログが普及する前は、「ブログ作るのって凄い」という感じでしたけど、総務省調べによると、4年間で本にすると2700万冊分のコンテンツがネットに出たらしいのですが、出版業界の場合は1年間で7万冊しか出てないんですよ。それくらいの可能性があると僕はあると思っています。皆コンテンツを書きたがっていて、それはWebでは広がったけども、∞books(ムゲンブックス)がもう少し皆のところに認知されるようになると「紙の本も簡単に出せるから出そうよ」となると思います。それが凄いことじゃなくて「みんな本出してるけど、売れたのって凄いよね。どうやって売ったの?」とところに本質的な価値があると思っています。本を出したか出してないかって今は出版社のさじ加減ですから。
__最後にエンジニアの方々に一言お願いします。
エンジニアは会社員としてものづくりに携わることもできますし、フリーランスとして仕事をすることもできます。さらに、自分のサービスを作ることもできます。こんな色んな働き方が選べるって凄い。なかなか他の職種じゃそうはいかないですよね。特にWeb系プログラマーって凄いなと。
サービスを0から設計してリリースまでをできる人は、色々な会社で活躍できるシーンが多いと思います。いろんな会社で活躍できるからこそ、もっともっと色んな事にチャレンジして欲しい。世の中を良くするのはエンジニアだと思ってますので、いろんな場所でチャレンジを続けて欲しいと思います。
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